「区分マンションを普通に賃貸するより、民泊や簡易宿所として運営した方が高い収益を狙えるのではないか」
「すでに旅館業許可を取得して営業している区分マンションなら、M&Aで取得してそのまま運営できるのではないか」
収益不動産への投資経験がある方から、このような相談を受けることがあります。
実際、区分マンションの一室を活用し、住宅宿泊事業法に基づく民泊や、旅館業法上の簡易宿所として運営しているケースは存在します。
しかし、ここで注意したいのが、
「現在営業している」=「買収後も同じ条件で営業できる」
とは限らないことです。
区分マンションには、一棟ホテルや戸建て民泊とは異なる特有の論点があります。
特に確認したいのが、
管理規約・許認可・自治体条例・建築・容積率・消防・M&Aスキーム
です。
なかでも見落とされやすいのが、共同住宅として適用されている容積率の緩和です。
共同住宅としては適法に建築されていても、宿泊用途への変更によって、それまで容積率に算入されていなかった共用廊下等が算入対象となり、建物全体として容積率の上限を超えてしまう可能性があります。国土交通省も、共同住宅から他用途への変更により、共用廊下等が容積率に算入され、上限を超過するケースがあり得ることを示しています。
つまり、表面上の利回りや現在の許可証だけでは、区分マンションの宿泊投資を判断できません。
この記事では、区分マンションで民泊・簡易宿所への参入や、すでに営業中の宿泊事業をM&Aで取得する際に確認したいポイントを、宿泊M&Aのデューデリジェンス(DD)という視点から解説します。
この記事でわかること
◎区分マンションで民泊・簡易宿所を行う際の主なハードル
◎管理規約・管理組合を確認する必要がある理由
◎旅館業許可と住宅宿泊事業の届出の違い
◎区分マンション特有の「共同住宅の容積率緩和」の注意点
◎建築基準法・消防法で確認したいポイント
監修:INVESTEL M&Aアドバイザリーチーム
※本記事は一般的な情報提供を目的とするもので、個別の法令適用、許認可・届出の可否、M&A後の営業継続を保証するものではありません。実際の案件では所轄行政庁、保健所、消防、建築士、行政書士、弁護士等へご確認ください。
1. なぜ区分マンションで「民泊・簡易宿所」が注目されるのか
区分マンション投資には、一棟物件と比較して少額から投資しやすく、売買市場も比較的形成されているという特徴があります。
一方、通常の賃貸住宅として運用する場合、
「もう少し収益性を高められないか」
と考える投資家も少なくありません。
そこで選択肢として挙がるのが、
賃貸住宅から宿泊施設への転換です。
通常賃貸では毎月の賃料が売上の上限になりますが、宿泊施設の場合はADR(平均客室単価)とOCC(客室稼働率)の組み合わせによって売上が決まります。
立地や商品設計、運営力によっては、通常賃貸を上回る収益を生み出せる可能性があります。
さらに近年では、ゼロから民泊・簡易宿所を開業するだけではなく、
すでに営業している宿泊事業をM&Aで取得する
という選択肢もあります。
家具・家電、運営体制、OTA掲載、過去の売上実績などを含めて取得できる案件であれば、新規開業と比較して事業立ち上げの負担を抑えられる可能性があります。
ただし、区分マンションの場合は注意が必要です。
「営業実績があること」と「取得後も同じ営業を継続できること」は別問題だからです。
2. まず整理したい「民泊」と「簡易宿所」の違い
投資判断の前に、最初に整理しておきたいのがどの制度に基づいて営業しているのかです。
一般的に「民泊」と呼ばれている宿泊施設でも、法律上は同じものではありません。

住宅宿泊事業では、人を宿泊させる日数は年間180日以内とされ、対象となる建物についても住宅としての要件があります。
一方、簡易宿所は旅館業法に基づく営業形態です。
つまり、
「民泊物件を買う」
と一言でいっても、
どの法律・制度に基づいて営業している物件なのか
によって、取得後の手続き、営業可能日数、確認すべき法令や条例が変わります。
宿泊M&Aでは、まずこの営業形態を特定することがDDの入口になります。
3. 区分マンションで最初に確認したい「管理規約」
区分マンションで民泊・簡易宿所を検討するとき、最初に確認したいのが管理規約と使用細則です。
特に住宅宿泊事業法に基づいてマンションで民泊を行う場合、管理規約で住宅宿泊事業が禁止されていないことを確認する必要があります。
さらに、管理規約に明確な記載がない場合でも、管理組合として住宅宿泊事業を禁止する方針がないか確認する必要があります。観光庁も、区分所有建物における届出時の確認事項として、管理規約や管理組合の方針確認を求めています。
したがって、
「自分が所有する部屋だから自由に民泊にできる」
とは限りません。
区分マンションの場合には、
・管理規約
・使用細則
・管理組合の決議・方針
・過去の総会・理事会議事録
・賃貸物件の場合は賃貸借契約
・転貸の場合は転貸承諾
などを確認する必要があります。
特にM&Aで既存の民泊事業を取得する場合、
「売主がこれまで営業できていたから大丈夫」
と判断しないことが重要です。
売主がどのような根拠・手続きで営業しているのか、管理規約や管理組合との関係まで確認したうえで、取得後も営業を継続できるかを判断する必要があります。
4. 区分マンションで特に注意したい「共同住宅の容積率緩和」
区分マンションを簡易宿所やホテル・旅館用途へ変更する際、特に見落としやすいのが容積率です。
「部屋の広さ自体は変わらないのだから、用途を変更しても容積率には関係ないのでは?」
と思われるかもしれません。
しかし、共同住宅には、ホテル・旅館とは異なる容積率算定上の特例があります。
建築基準法では、共同住宅の共用廊下・共用階段など一定の部分について、容積率を計算する際の延べ面積に算入しない措置が設けられています。
例えば、マンションの建築時に、
指定容積率:400%
に対して、
共同住宅としての容積率:390%
で建築されていたとします。
一見すると、指定容積率400%以内なので問題ありません。
しかし、この390%という数字が、共同住宅として共用廊下・階段等の床面積を容積率に算入しない特例を利用した結果だった場合には注意が必要です。
共同住宅の一部をホテル・旅館等の用途へ変更することで、それまで不算入だった共用廊下等の一部が容積率算定上の床面積に算入されることになれば、
390% → 405%
など、用途変更後に指定容積率を超える可能性があります。
※上記数値は仕組みを説明するための例です。
国土交通省も、共同住宅として容積率に算入されていなかった共用廊下等が、他用途への変更によって算入対象となり、容積率の上限を超えるため用途変更が困難になるケースを示しています。
つまり、
「現在、適法に建っているマンションだから旅館業にも転用できる」
とは限らないということです。
一室だけの旅館業でも「建物全体」を確認する
区分マンションで特に注意したいのが、
「一棟全部をホテルにするわけではなく、一室だけだから問題ないだろう」
という判断です。
共同住宅とその他の用途が混在する建物については、共用廊下等が住戸だけに利用されるのか、それ以外の用途にも利用されるのかによって、容積率不算入部分の取り扱いが変わり得ます。
国土交通省も、共同住宅とその他用途が複合する建物について、共用廊下等の利用状況に応じた取り扱いを示しています。
そのため、一室だけを宿泊用途へ変更する場合でも、
専有部分だけを見て「旅館業ができる」と判断するのは危険です。
取得前には、
・建築確認上の用途
・指定容積率
・現在の容積率
・容積率不算入部分
・共同住宅として利用している容積率の特例
・宿泊用途への変更後の容積率
・共用廊下・階段等の扱い
・過去の用途変更履歴
などを、建築士や特定行政庁等へ確認することが重要です。
5. 建築基準法・消防法も「専有部分だけ」で判断しない
容積率とあわせて確認したいのが、建築基準法と消防法です。
区分マンションの専有部分は、建築確認上「共同住宅」として計画されているケースが一般的です。
これを簡易宿所・ホテル・旅館として使用する場合には、
・建築確認上の用途
・用途変更手続きの要否
・容積率
・避難経路
・廊下・階段
・防火区画
・非常用照明
・消防設備
などを確認する必要があります。
また、消防についても、
・自動火災報知設備
・誘導灯
・消火器
・防炎物品
・避難経路
などについて、現在の設備で宿泊用途の基準を満たせるか確認する必要があります。
住宅宿泊事業についても、観光庁は届出前に管轄消防へ相談し、消防法令適合通知書を入手するよう案内しています。
区分マンションで難しいのは、必要な対応が専有部分だけで完結するとは限らないことです。
例えば、共用廊下・階段・エントランスなどに設備対応が必要になれば、管理組合との調整が必要になる可能性があります。
つまり区分マンションの宿泊用途への転換では、
管理規約 → 建築用途 → 容積率 → 消防 → 旅館業・民泊の許認可
を個別に確認するのではなく、相互に関連するものとして確認することが重要です。
6. 区分マンションでは「許認可DD」を投資判断の入口にする
区分マンションの宿泊案件では、収支表を見ると非常に魅力的に見えるケースがあります。
しかし、売上や利回りだけで投資判断するのではなく、
①取得後も営業を継続できるか
②管理規約上問題がないか
③建築・容積率・消防上問題がないか
④許認可を適切に承継・取得できるか
⑤現在の収益を取得後も再現できるか
という順番で考えることが重要です。
特に区分マンションの場合、
管理規約 → 建築用途 → 容積率 → 消防 → 許認可 → M&Aスキーム
のどこか一つに問題があるだけでも、取得後の事業計画が大きく変わる可能性があります。
だからこそ、案件の初期検討段階から、
「この事業はいくら儲かるか」だけでなく、「この営業を取得後も続けられるか」
を確認することが重要です。
まとめ|区分マンションの民泊M&Aは「利回り」より先に営業継続性を見る
区分マンションを活用した民泊・簡易宿所は、通常賃貸とは異なる収益機会を生み出せる可能性があります。
また、すでに営業している宿泊事業をM&Aで取得することで、ゼロから事業を立ち上げるより早く事業を開始できるケースもあります。
一方で、区分マンションには、
管理規約
許認可
自治体条例
建築用途
容積率
消防
M&Aスキーム
という複数の論点があります。
特に注意したいのが、共同住宅として適用されている容積率の特例です。
共同住宅として適法に建築されたマンションでも、宿泊用途への変更によって、それまで容積率に算入されていなかった共用廊下等の扱いが変わり、容積率制限に抵触する可能性があります。
そのため、
「営業中だから大丈夫」
「旅館業許可があるから大丈夫」
「一室だけだから大丈夫」
「売上実績があるから大丈夫」
と判断しないことが重要です。
旅館業については、2023年12月以降、事業譲渡について事前承認による営業者の地位の承継制度が設けられています。
しかし、許認可だけを確認しても十分ではありません。
区分マンションの宿泊M&Aで重要なのは、
「現在の営業がどのような法的・建築的条件の上で成立しているのか」
を確認し、
「取得後もその営業を適法に継続できるのか」
までDDすることです。
宿泊M&Aで買うのは、単なる過去の売上ではありません。
取得後も継続できる事業と、その将来キャッシュフローです。
だからこそ区分マンションの民泊・簡易宿所M&Aでは、
「利回りを見る前に、営業継続性をDDする」
という順番が重要になります。
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本記事は、宿泊施設のM&Aおよび許認可に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法律・税務・行政手続その他の専門的助言を行うものではありません。
法令、条例および行政上の取り扱いは改正・変更される場合があります。また、必要となる手続きや判断は施設所在地、営業形態、取引スキーム等によって異なります。
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