「ホテルや旅館をM&Aで取得したいが、自己資金だけで足りるのだろうか」
「M&Aの仲介手数料やデューデリジェンス費用に使える補助金はあるのか」
「宿泊施設の取得後に必要となる改修費や設備投資まで含めて、どのように資金計画を組めばいいのか」
ホテル・旅館・民泊などの宿泊M&Aを検討する際、案件選定と同じくらい重要になるのが資金調達です。
宿泊施設の取得では、単純な買収価格だけでなく、
取得対価+M&A関連費用+取得諸費用+CAPEX+運転資金
まで含めた総投資額を考える必要があります。
そのため、自己資金だけでなく、金融機関からの融資や補助金などを組み合わせながら資金計画を設計することが重要です。
なかでも、中小企業・小規模事業者等のM&Aで活用を検討したい制度の一つが、「事業承継・M&A補助金」です。
2026年9月4日には第16次公募の公募要領が公開され、申請受付は2026年10月2日〜11月6日17時に予定されています。
本記事では、2026年9月時点の最新情報をもとに、
◎宿泊M&Aの資金調達の基本
◎事業承継・M&A補助金とは何か
◎第15次・第16次公募の最新スケジュール
◎買い手・売り手が活用を検討できる支援
◎M&A後の設備投資・PMI
◎補助金を使う際の注意点
を宿泊M&Aの実務という視点から解説します。
監修:INVESTEL M&Aアドバイザリーチーム
1. 宿泊M&Aの資金調達は「買収価格」だけで考えない
宿泊施設のM&Aを検討するとき、最初に考えたいのが総投資額です。
例えば3億円でホテルを取得する場合でも、必要となる資金が3億円だけとは限りません。
M&Aでは、案件によって次のような費用が発生します。
取得対価
・株式取得価格
・事業譲渡価格
・不動産取得価格など
M&A関連費用
・仲介手数料
・FA費用
・財務・税務・法務DD費用
・不動産調査費用など
取得後の投資
・建物修繕
・客室改修
・家具・什器
・設備更新
・消防設備
・IT・PMS導入など
さらに、
・採用費
・マーケティング費
・OTA掲載・運用費
・運転資金
などが必要になるケースもあります。
そのためINVESTELでは、宿泊M&Aにおける投資額を、
取得価格+取得諸費用+M&A費用+CAPEX+運転資金=All-in Cost(総投資額)
として考えることをおすすめしています。
2. 宿泊M&Aの資金調達は3つに分けて考える
宿泊M&Aにおける資金調達は、大きく次の3つに分けて考えると整理しやすくなります。
① 自己資金
買収代金の一部や、取得後の運転資金として使用します。
金融機関から融資を受ける場合でも、一定の自己資金を求められるケースがあります。
ただし、必要な自己資金比率に一律の基準があるわけではなく、案件の収益性、不動産価値、買い手の財務状況、既存事業、担保、金融機関の審査方針などによって異なります。
② 金融機関からの融資
宿泊施設の取得では、
- 日本政策金融公庫
- 地方銀行
- 信用金庫
- 信用組合
- 民間銀行
- 制度融資
などからの資金調達が考えられます。
不動産を含むM&Aなのか、事業譲渡なのか、株式譲渡なのかによっても融資の組み方は変わります。
③ 補助金
M&Aそのものや、取得後の設備投資・PMIなどについて、一部費用が補助対象になる制度があります。
代表的な制度の一つが、事業承継・M&A補助金です。
3. 「事業承継・M&A補助金」とは?
事業承継・M&A補助金は、中小企業・小規模事業者等による事業承継やM&Aを支援する国の補助制度です。
設備投資だけでなく、
M&Aに伴う経営資源の引継ぎ
や、
M&A後の経営統合(PMI)
にかかる経費なども対象になり得ます。

2026年の公募では、主に次の4つの枠があります。
宿泊M&Aで特に確認したいのは、専門家活用枠とPMI推進枠です。
4. 宿泊M&Aでは「専門家活用枠」を確認
ホテル・旅館・民泊などのM&Aでは、
・仲介会社
・FA
・弁護士
・公認会計士
・税理士
・不動産鑑定
・デューデリジェンス
など、さまざまな専門家費用が発生する可能性があります。
そこで活用を検討したいのが、事業承継・M&A補助金の専門家活用枠です。
買い手・売り手それぞれに類型があり、M&A実行に必要となる専門家費用などの一部が補助対象になり得ます。
ただし、
「M&Aをすれば自動的に補助される」わけではありません。
対象となる取引、申請者、専門家、契約・支払時期、対象経費などについて細かな要件があります。
また、公募回によって要件や補助率・上限額が異なるため、必ず申請する回の公募要領を確認する必要があります。
5. M&A後のホテル再生では「PMI推進枠」も重要
宿泊M&Aでは、取得して終わりではありません。
むしろホテル・旅館の場合、取得後に、
・運営体制の変更
・PMS導入
・管理会計整備
・人員配置の見直し
・マーケティング改善
・ブランド変更
・設備投資
・客室改修
などを行うことで、収益性を高めていくケースが多くあります。
こうしたM&A後の経営統合や事業統合投資を支援するのが「PMI推進枠」です。
16次公募では、PMI専門家活用類型の補助上限額は150万円、事業統合投資類型では原則800万円、一定の賃上げ要件を満たす場合は最大1,000万円となっています。
宿泊M&Aでは、
M&A費用と、取得後の再生・運営改善費用を分けて資金計画する
という視点が重要です。
6. 【2026年最新】第15次・第16次公募スケジュール
2026年9月10日時点の公式情報では、事業承継・M&A補助金のスケジュールは次のとおりです。
第15次公募
申請受付期間:2026年6月19日〜7月24日17時
現在は受付を終了しており、採択結果は2026年9月中旬以降順次の予定です。
第16次公募
2026年9月4日に公募要領が公開されました。
申請受付期間:2026年10月2日〜11月6日17時
採択:2026年12月下旬以降順次予定
交付申請:2027年1月上旬〜11月中旬予定
となっています。
つまり、2026年9月時点でこれから宿泊M&Aを検討している事業者にとって、直近の申請機会は第16次公募です。
7. 補助金を使うならM&Aのスケジュール設計が重要
ここは宿泊M&Aの実務上、非常に重要なポイントです。
補助金を利用する場合、
「M&Aが決まってから補助金を探す」
では間に合わないケースがあります。
なぜなら補助金には、
・公募期間
・申請
・採択
・交付申請
・交付決定
・補助事業期間
という流れがあり、補助対象となる契約や支払いの時期にも条件があるためです。
例えば、
案件探索 → 基本合意 → 補助金申請 → 採択・交付手続 → DD → 最終契約 → クロージング
といった流れを検討する場合でも、実際にどのタイミングで契約・支払可能かは制度ごとに確認する必要があります。
補助金を活用したい場合は、
M&Aスケジュールと補助金スケジュールを同時に設計する
ことが重要です。
8. GビズIDは早めに準備。
事業承継・M&A補助金の申請はJグランツを通じて行います。
そのため、申請にはGビズIDプライムが必要です。
以前は取得に一定期間を要するケースがありましたが、現在はマイナンバーカードを利用したオンライン申請であれば、最短即日で発行可能です。
一方、書類申請の場合は時間がかかるため、公募締切直前ではなく早めに準備しておく方が安全です。
補助金活用を少しでも検討している場合は、案件が確定する前から取得しておくことをおすすめします。
9. 観光庁の補助金は「M&A補助金」と分けて考える
宿泊施設では、M&A関連の補助金だけではなく、観光庁による支援制度もあります。
ただし、
M&Aの取得費用を支援する制度
と、
取得後の設備・DX・地域整備等を支援する制度
は分けて考える必要があります。
例えば、2026年度には観光庁が「全国の観光地・観光産業における観光DX推進事業」を実施しました。
この事業では、
・宿泊施設のPMS
・デジタルツール
・レベニューマネジメント
・データ活用
・販路拡大
など、観光産業の生産性向上や高付加価値化につながるDXを支援しています。
ただし、2026年度の公募は4月24日〜5月29日に実施され、6月30日には採択結果が公表済みです。
そのため、この記事を読む時点で「今すぐ申請できる制度」とは限りません。
補助金については、制度の存在だけでなく現在公募中かどうかまで確認することが重要です。
10. 「高付加価値経営旅館等」登録も確認しておきたい
宿泊事業者の場合、観光庁の**「高付加価値経営旅館等登録制度」**も確認しておきたい制度の一つです。
この制度は、宿泊事業者の経営状況、人事・労務、IT活用などを一定の基準で評価し、
・高付加価値経営旅館等
・準高付加価値経営旅館等
として登録する制度です。
観光庁は、この登録を宿泊施設向けの一部補助事業において申請要件や優先評価として活用しています。
ホテル・旅館を取得した後に、
改修・DX・高付加価値化
を進めていく場合には、将来的な補助事業の活用も見据えて登録要件を確認しておく価値があります。
11. 「宿泊M&Aで使える補助金」は一つではない
宿泊施設をM&Aで取得する場合、資金用途を分解すると考えやすくなります。
例えば、
M&A仲介・DD費用
→ 事業承継・M&A補助金
M&A後のPMI
→ PMI推進枠
設備投資・省力化
→ 中小企業向け設備投資系補助金
PMS・IT・DX
→ IT・DX関連支援制度
施設の高付加価値化
→ 観光庁・自治体等の支援制度
というように、目的によって対象制度が異なります。
重要なのは、
「使える補助金を探す」のではなく、「何にいくら使うのかを整理してから制度を探す」
ことです。
12. 補助金ありきのM&Aはおすすめしない
補助金は非常に有効な制度ですが、資金計画を補助金ありきで設計することには注意が必要です。
理由は大きく4つあります。
採択されるとは限らない
補助金は審査制であり、申請したからといって必ず採択されるわけではありません。
補助対象外になる経費もある
買収価格そのものや不動産取得価格など、すべての費用が対象になるわけではありません。
資金が先に必要になる場合がある
補助金は実績報告等を経て交付されるため、実際の支払いに必要な資金を別途準備しなければならない場合があります。
M&Aスケジュールと合わない可能性がある
売り手が早期クロージングを希望する場合など、補助金の採択・交付スケジュールを待てないケースもあります。
そのため、INVESTELでは、
「補助金がなくても成立する投資計画」を基本とし、補助金は投資効率を改善する追加要素として考える
ことをおすすめします。
13. 融資・補助金より先に確認したいのは「返済できる事業か」
資金調達の相談では、
「いくら借りられるか」
「補助金はいくら出るか」
という話になりがちです。
しかし、宿泊M&Aで本当に重要なのは、取得後のキャッシュフローで返済できるかです。
例えば金融機関から融資を受けられたとしても、
・ADRが下落する
・OCCが想定を下回る
・人件費が増える
・修繕費が発生する
・OTA手数料が増える
・金利が上昇する
といった状況になれば、返済余力は低下します。
そのため宿泊M&Aでは、
売上 → GOP → キャッシュフロー → 元利返済
まで落とした収支シミュレーションを作ることが重要です。
融資を受けられるかどうかではなく、
「借入をしても安全に返済できる案件か」
という視点で投資判断をする必要があります。
まとめ|宿泊M&Aの資金調達は「取得前」と「取得後」を分けて考える
宿泊M&Aの資金調達は、
自己資金+融資+補助金
の組み合わせで考えるのが基本です。
ただし、さらに重要なのは、
取得するためのお金
と、
取得後にホテルを運営・改善するためのお金
を分けて考えることです。
事業承継・M&A補助金では、M&Aに伴う専門家費用やPMI、設備投資等を支援する複数の枠が設けられています。2026年9月時点では、第16次公募要領がすでに公開され、2026年10月2日〜11月6日の申請受付が予定されています。
一方で、補助金だけでM&Aを成立させようとするのは危険です。
宿泊M&Aでは、
取得価格
+M&A関連費用
+取得諸費用
+CAPEX
+運転資金
まで含めたAll-in Costを把握し、
その投資額を取得後のキャッシュフローで回収できるかを確認する必要があります。
つまり重要なのは、
「補助金が使える案件か」ではなく、
「補助金がなくても成立し、使えればさらに投資効率が上がる案件か」
という考え方です。
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