「シャッターが閉まっていた商店が、いつの間にかホテルの客室になっていた」
「空き家だった古民家に旅行者が泊まり、町の飲食店で食事をしている」
いま全国各地で、こうした光景が少しずつ増えています。
その一つが、町に点在する空き家、古民家、商家、蔵などを宿泊施設として再生し、「町全体を一つのホテルのように捉える」分散型ホテルです。
代表的な取り組みであるNIPPONIAは、2025年6月時点で全国33地域に展開。2025年には三重県伊勢市、香川県三豊市、石川県小松市などで新たなプロジェクトが進み、2026年には新潟市でも新たな分散型宿泊施設が誕生しています。
さらに、歴史的建築物を活用した分散型ホテルを全国で運営するVMG HOTELS & UNIQUE VENUESや、空き家などの遊休資産を滞在拠点へ変えるAirbnbとJTBの「地域未来にぎわい工房」など、プレイヤーも多様化しています。
つまり、これは単なる「古民家ホテルの流行」ではありません。
空き家・遊休不動産を宿泊施設へ再生し、宿泊客を地域へ呼び込み、町全体で観光消費を生み出す。
宿泊施設の開発そのものが、地域再生の手段になり始めています。
本記事では、ホテル・旅館・民泊など宿泊施設への投資・M&Aを専門に扱うINVESTELの視点から、全国で広がる分散型ホテルの最新事例と、その背景にある国の支援策、さらに宿泊投資・M&A市場にどのような可能性を生み出すのかを解説します。
この記事でわかること
◎「分散型ホテル」とはどのような宿泊施設なのか
◎なぜ全国で空き家・古民家の宿泊施設化が進んでいるのか
◎NIPPONIA、VMG HOTELSなど全国の代表的な事例
◎Airbnb×JTBによる「地域未来にぎわい工房」の動き
◎観光庁による地域一体型の観光地再生支援
◎分散型ホテルを宿泊投資として見る際のポイント
◎空き家・旅館・商店などの再生が宿泊M&Aにつながる可能性
監修:INVESTEL M&Aアドバイザリーチーム
※本記事は2026年9月時点の公開情報をもとに作成しています。許認可、補助制度等については、実際の事業検討時に所轄行政庁・保健所・消防・専門家等へ最新情報をご確認ください。
1. 「分散型ホテル」とは?町全体を一つのホテルにする
一般的なホテルでは、一つの建物の中に、客室、フロント、レストラン、ラウンジなどの機能が集約されています。
一方、分散型ホテルでは、町に点在する古民家、空き家、商家、蔵などを再生し、客室・フロント・レストランなどの機能を地域の複数の建物へ分散させます。
その原型の一つとされているのが、イタリアで生まれた「アルベルゴ・ディフーゾ(Albergo Diffuso)」です。
日本でも歴史的な町並みや空き家を活用する方法として、この考え方を取り入れた宿泊施設が各地で展開されています。
例えば、チェックインは旧商家を再生したフロントで行い、そこから町を歩いて古民家の客室へ移動する。
夕食は地域のレストランを利用し、翌朝は地元の商店やカフェへ足を運ぶ。
こうなると、宿泊施設の敷地は一つの建物ではありません。
「町そのもの」がホテルになります。
実際、佐原商家町ホテルでは、歴史的な商家や蔵などにレセプション・客室・レストランを分散させ、「まち全体がまるごとホテルになる」という考え方を掲げています。
2. なぜ今、「分散型ホテル」が全国で広がっているのか
背景にあるのは、単純な宿泊需要の増加だけではありません。
地方では、
空き家の増加
歴史的建築物の老朽化
商店街の空洞化
旅館の後継者不足
人口減少
観光客の日帰り化
など、複数の地域課題が同時に進んでいます。
これまで空き家や古い商店は、
「売却する」
「賃貸する」
「解体する」
といった選択肢で考えられることが中心でした。
しかし、観光需要が存在する地域であれば、
空き家・遊休不動産
↓
取得・賃借
↓
改修
↓
宿泊施設化
↓
旅行者が滞在
↓
地域で消費
↓
地域不動産の価値向上
という、新しい循環をつくれる可能性があります。
ここに、分散型ホテルの面白さがあります。
3. 全国へ広がるNIPPONIA|「古民家再生」から「エリア開発」へ
国内の代表的な取り組みの一つが、NIPPONIAです。
NIPPONIAは単に古民家をホテルへ改修するのではなく、地域に残る歴史的建築物や文化、暮らしそのものを活用しながら、地域単位で事業をつくることを特徴としています。
2025年6月時点で、NIPPONIAは全国33地域に展開しています。
直近でも、新たな施設・プロジェクトが続いています。
NIPPONIA HOTEL 伊勢河崎 商人町|三重県伊勢市
2025年4月25日に開業。
伊勢参りを支えた商人町・河崎に残る6棟の古民家を8室の宿泊施設へ再生した分散型ホテルです。
注目したいのは、単独のホテル事業者だけで開発したわけではないことです。
地域事業者、住民、地域金融機関などが関わり、まちづくり会社「伊勢河崎まちづくり株式会社」を設立して事業化されています。
さらに、観光庁の「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」も活用されています。
これは今後の地域型ホテル開発を考えるうえで重要なポイントです。
「ホテル会社が一棟を開発する」のではなく、「地域に会社をつくり、地域資産を宿泊事業として再生する」
というモデルだからです。
NIPPONIA 仁尾 水鏡の町|香川県三豊市
2025年6月14日に開業。
既存の一棟貸し宿泊施設2棟に、空き古民家2棟を加え、計4棟6室の分散型ホテルとして展開されています。
三豊市仁尾では、父母ヶ浜などへの観光客が増える一方、日帰り観光が多く、地域内の宿泊者が少ないことが課題となっていました。
そこで、町に残る空き家や歴史的建築を「泊まれる地域資産」へ転換しています。
単なる空き家対策ではなく、
「観光客を増やす」から「地域に滞在してもらう」へ
観光の構造を変えようとしている点が特徴です。
NIPPONIA 小松|石川県小松市
2025年には石川県小松市でも官民連携によるNIPPONIAプロジェクトが始動し、9月に分散型宿泊施設がオープンしました。
NIPPONIA 新潟古町 花街|新潟県新潟市
さらに2026年には、新潟市の古町エリアで市内初となる分散型宿泊施設のプロジェクトが発表されています。
北前船などで栄えた湊町の歴史や、古町芸妓に代表される文化を次世代へつなぐことを目的とした取り組みです。
ここまでを見ると、分散型ホテルはもはや一部の古民家再生事例ではなく、
歴史的建築物 × 空き家 × 宿泊 × 地域文化 × エリア開発
を組み合わせた地域事業へと広がっていることがわかります。
4. NIPPONIAだけではない|全国で広がる「まちに泊まる」ホテル
注目したいのは、こうした動きがNIPPONIAだけではないことです。
全国では、複数の企業・地域が異なる方法で「まちをホテルにする」取り組みを進めています。
VMG HOTELS & UNIQUE VENUES|歴史的建築を活用した分散型ホテル
歴史的建築物を活用したホテルを全国で展開しているのが、VMG HOTELS & UNIQUE VENUESです。
同ブランドは、重要伝統的建造物群保存地区に残る建物や文化財などを活用し、「まちに溶けこむように泊まる」分散型ホテルを各地で展開しています。
例えば兵庫県朝来市の「竹田城 城下町 ホテルEN」は、竹田城跡の城下町に歴史的建築を活用した宿泊棟が点在する施設で、現在は6棟13室で構成されています。
福岡県太宰府市の「HOTEL CULTIA 太宰府」も、太宰府天満宮の門前町に点在する3棟から構成される分散型ホテルです。
さらに千葉県香取市の佐原では、商家や蔵を再生した客室が歴史的な町並みに点在しています。
ここで重要なのは、
「古い建物をホテルにした」だけではない
ということです。
ホテルに泊まること自体が、城下町、門前町、商家町を歩き、地域の歴史や文化を体験するきっかけになるよう設計されています。
5. Airbnb×JTBも全国125地域へ|「ホテル開発」ではない分散型モデルも
さらに注目したいのが、AirbnbとJTBによる「地域未来にぎわい工房」です。
両社は、空き家などの遊休資産を滞在資源へ変え、地域に新しい人の流れをつくる取り組みを進めています。
2028年までに全国125地域への展開を目指しています。
北海道上ノ国町では、地域住民や高校生が参加するDIYやワークショップを通じて空き家を宿泊施設へ転換。将来的には、町全体で30〜40の「泊まれる場所」を整備する構想が示されています。
これは厳密には、一つのホテルブランドとして客室を分散配置する従来型の「分散型ホテル」と同じモデルではありません。
しかし、
一つの大型ホテルを建てるのではなく、地域に点在する遊休不動産を一棟ずつ滞在拠点へ変える
という考え方は共通しています。
つまり今後は、
「分散型ホテル」だけではなく「分散型の宿泊地域」
そのものが全国で増えていく可能性があります。
6. 一棟貸し古民家も「地域を宿泊地に変える」入口になる
さらに、その手前にあるのが一棟貸しの古民家宿です。
岡山県倉敷市の倉敷美観地区では、2025年9月12日に「美観地区一棟貸し 泊葉 -HAKUHA-」が宿泊を開始しました。
歴史的な町家を改修し、一日一組・最大8名まで宿泊できる施設として再生されています。
梁や柱など既存建物の特徴を残しながら、水回り、空調、Wi-Fiなどを現代仕様へ改修。公式サイトでは宿泊料金を82,000円(税込)からとしています。
こうした施設は単体では分散型ホテルではありません。
しかし、
1棟目を再生
→ 2棟目を再生
→ 飲食店と連携
→ 地域体験をつくる
→ 複数の宿泊拠点を形成
という展開が進めば、地域全体の宿泊機能へ発展していく可能性があります。
重要なのは、「最初から大規模なホテルをつくらなければならない」と考えないことです。
7. 分散型ホテルの事業構造|一棟のホテルとは何が違う?
宿泊投資という観点では、分散型ホテルには一般的なホテルとは異なる特徴があります。
例えば一棟のホテルを開発する場合、
土地取得 → 建築 → 客室整備 → 開業
という形で、まとまった投資が先行します。
一方、地域に複数の空き家が存在する場合、
1棟目取得・再生
→ 運営開始
→ 2棟目取得・再生
→ 客室追加
→ 3棟目取得・再生
と、段階的にエリア内の宿泊機能を拡張できるケースがあります。
これは分散型ホテルの大きな可能性の一つです。
ただし、
「古民家だから安くホテルをつくれる」
とは限りません。
築年数の古い建物では、
耐震、構造、屋根、外壁、断熱、給排水、電気、消防、防火、空調などの改修費が大きくなる場合があります。
さらに複数棟を運営する場合、
清掃
リネン
チェックイン
荷物配送
スタッフ移動
設備管理
緊急対応
などのオペレーションが分散します。
そのため、単純な建築費だけではなく、
「複数棟を一つのホテルとして効率的に運営できるか」
まで含めて事業計画を作る必要があります。
8. 国も「一施設」ではなく「地域一体」の観光地再生を支援
こうした民間の動きと並行して、国の観光政策でも「地域一体」という考え方が強まっています。
観光庁は2026年6月30日、「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化事業」の優良事例集を公表しました。
同事業では、令和3年度から令和6年度にかけて、
宿泊施設・観光施設の改修
廃屋撤去
面的DX化
地域計画の策定・磨き上げ
などを、補助金と専門家による伴走支援によって後押ししてきました。
今回の事例集では、
阿寒湖温泉、修善寺・中伊豆、赤穂温泉、浅虫温泉、加賀温泉郷、伊香保温泉、久米島、内子町、隠岐諸島の9地域が紹介されています。
ここで注目したいのは、
「一つの旅館を改修する」だけではなく、「地域全体の稼ぐ力を高める」
ことが政策のテーマになっていることです。
これは分散型ホテルの考え方とも非常に親和性があります。
9. INVESTELの視点|分散型ホテルは「空き家再生」ではなく「エリア投資」
宿泊投資・M&Aの視点から見ると、分散型ホテルを単なる「古民家再生」と捉えるだけでは十分ではありません。
重要なのは、
一棟の不動産価値ではなく、エリア全体の価値をどう高めるか
という視点です。
例えば、地域に5棟の空き家があるとします。
それぞれを単純に住宅として売却するのではなく、
A棟:フロント・ラウンジ
B棟:客室
C棟:客室
D棟:レストラン
E棟:サウナ・体験施設
として再生すれば、複数の遊休不動産が一つの宿泊事業を構成する可能性があります。
さらに宿泊客が周辺の飲食店、商店、観光施設を利用することで、ホテル単体ではなく地域全体に消費が広がります。
つまり分散型ホテルへの投資は、
「ホテルを一棟買う」というより、「エリアに宿泊事業をつくる」投資
と考えることができます。
10. 宿泊M&Aとの相性|「点」の案件を「面」に変える
この動きは、宿泊M&Aとも密接に関係します。
地方には、
後継者がいない旅館
廃業した小規模宿
空き家
古民家
空き店舗
旧銀行
旧酒蔵
遊休保養所
など、単体では投資対象として評価しにくい不動産が数多く存在します。
しかし、複数の資産を一つのエリア戦略の中で組み合わせることで、価値が変わる可能性があります。
例えば、
既存旅館を取得してフロント・レストラン機能を残し、周辺の空き家を客室として追加する
という方法も考えられます。
あるいは、
廃業旅館を取得
→ 改修
→ 周辺空き家を追加取得・賃借
→ 客室を増設
→ 地域事業者と体験・飲食を造成
といった展開も考えられます。
ここでM&Aが果たす役割は、単なる「会社の売買」ではありません。
地域に残された既存の宿泊事業、建物、許認可、運営ノウハウ、人材、取引先などを次の事業者へつなぎ、地域再生の起点にすることも、宿泊M&Aの役割になり得ます。
11. ただし「空き家が多い地域=分散型ホテルが成立する」ではない
ここは投資家にとって非常に重要です。
分散型ホテルが注目されているからといって、
空き家を集めればホテルになるわけではありません。
最初に考えるべきなのは、不動産ではなく需要です。
例えば、
・なぜ旅行者がその地域へ行くのか
・なぜ日帰りではなく泊まるのか
・どのくらいのADRを設定できるのか
・年間OCCはどの程度見込めるのか
・平日需要をどうつくるのか
・インバウンド需要を獲得できるのか
・何棟まで客室を増やしても需要があるのか
・地域内に飲食・体験・交通などの機能があるのか
を確認する必要があります。
さらに物件ごとに、
権利関係、用途地域、建築基準法、消防法、旅館業法、自治体条例、接道、耐震、改修費
などを確認しなければなりません。
分散型ホテルでは複数の建物を使用するため、各棟の位置関係・構造・用途・運営方法などに応じて、旅館業、建築、消防上どのような手続き・対応が必要になるかを事前に整理することが重要です。
12. 分散型ホテルで見るべきKPIは「ホテル売上」だけではない
さらに、地域再生型の宿泊事業では、ホテル単体の売上だけを見ると本質を見失う可能性があります。
例えば、
空き家率の改善
滞在時間の増加
宿泊者数
地域内消費額
飲食店利用
体験プログラム利用
新規出店
雇用創出
不動産価値の向上
関係人口の増加
など、宿泊施設の外側にも経済効果が生まれます。
もちろん民間の宿泊事業としては、ADR・OCC・RevPAR・GOP・キャッシュフローを成立させる必要があります。
しかし地域開発という視点では、
「ホテル単体でいくら売るか」+「ホテルが地域にどれだけ経済活動を生むか」
という二つの視点が重要になってきます。
まとめ|ホテルを「建てる」から、地域に「つくる」時代へ
分散型ホテルは、単なる古民家ホテルの新しい呼び方ではありません。
全国では、NIPPONIAをはじめ、VMG HOTELS & UNIQUE VENUES、Airbnb×JTBなど、異なるプレイヤーによって、
空き家・歴史的建築物・遊休不動産を滞在資源へ転換する取り組み
が広がっています。
そして国の観光政策も、一施設だけではなく「地域一体」で観光地の価値を高める方向へ動いています。
これからの地方の宿泊開発では、
更地を取得して大型ホテルを新築する
だけが選択肢ではありません。
地域にすでに存在する、
旅館、古民家、空き家、商店、蔵、歴史的建築物
を一つずつ再生し、それらをつないで地域全体を宿泊地へ変えていく。
そして、
空き家の発掘
→ 取得・賃借
→ 再生
→ 宿泊施設化
→ 運営
→ 地域価値の向上
→ 次の投資家・事業者へ承継
という循環が生まれれば、これまで「負動産」と考えられていた不動産が、新しい宿泊資産へ変わる可能性があります。
宿泊投資の対象は、必ずしも完成したホテルだけではありません。
「地域に眠っている資産を、どう組み合わせれば宿泊事業になるのか」
という視点そのものが、これからの宿泊投資・地域再生における重要なテーマになっていくでしょう。
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ホテル・旅館だけでなく、古民家、空き家、小規模宿泊施設、遊休保養所、廃業旅館などを活用した宿泊事業についても、不動産売買、事業譲渡、株式譲渡、賃貸など、案件の状況に応じたさまざまな形で検討できます。
「後継者がいない旅館を次の事業者へ引き継ぎたい」
「地域の空き家を活用して宿泊事業をつくりたい」
「複数の遊休不動産を活用して分散型ホテルを検討したい」
「既存の宿泊施設を取得し、周辺エリアまで再生したい」
こうした段階から、INVESTELへご相談ください。
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