民泊投資は「作る」だけでなく「買う」時代へ
民泊投資というと、
「物件を購入して民泊を始める」
「民泊可能物件を借りて、自分で開業する」
といった方法をイメージする方が多いのではないでしょうか。
しかし近年、新しい民泊投資の選択肢として注目されているのが、すでに運営されている民泊事業をM&Aによって引き継ぐ「民泊M&A」です。
物件探しから始めるのではなく、許認可・家具家電・運営実績・清掃会社・運営体制などが構築された民泊事業を引き継ぐことで、開業までの時間や手間を抑えながら民泊事業へ参入できます。
特に数百万円〜1,000万円程度の小規模案件であれば、不動産そのものを購入する場合と比較して必要資金を抑えられるため、個人投資家や初めて宿泊事業へ参入する方にとっても検討しやすい選択肢になります。
この記事でわかること
◎民泊M&Aとは何か
◎民泊M&Aのメリット・注意点
◎新規開業・不動産購入との違い
◎民泊M&Aの価格・利回り事例
◎購入前に確認すべき許認可・契約・収支
◎民泊M&Aの購入から引き継ぎまでの流れ
◎民泊M&Aが向いている人
◎利回りだけで判断しない投資分析のポイント
1. 民泊M&Aとは?
民泊M&Aとは、簡単にいうと、
すでに営業している民泊事業を、事業として売買する方法
です。

一方、民泊M&Aでは、すでに営業している事業を引き継ぐため、案件によってはこうした準備の多くが完了した状態から事業をスタートできます。
INVESTELでは、特に3,000万円以下の運営中の民泊事業を対象とするM&Aを「スモールM&A」の一つとして捉えています。
なかでも中心となるのが、東京・大阪・福岡・札幌・名古屋などの都市圏における、1,000万円以下で取得できる賃貸型・転貸型の民泊事業です。
2. なぜ今「民泊M&A」が注目されるのか?
背景にあるのが、宿泊需要の回復・拡大と、民泊を取り巻く規制環境の変化です。
訪日外国人旅行者による旅行消費額や一人当たり旅行支出は上昇しており、2025年の訪日外国人旅行者の支出のうち宿泊費が36.6%を占めています。
国内旅行についても、宿泊支出単価がコロナ前を上回る72,273円/人となり、国内旅行消費額も過去最高を更新したとされています。
つまり、宿泊需要そのものには追い風があります。
一方で、民泊を新しく開業するハードルは決して低くありません。
特に注意したいのが、自治体ごとの規制です。
例えば、2026年以降の条例変更例として、
- 大阪市:特区民泊の新規受付終了
- 墨田区:原則として月曜〜金曜正午の営業禁止
- 豊島区:年間120日に制限
- 葛飾区:原則として月曜〜土曜正午の営業禁止
などが挙げられています。
※規制内容は変更される可能性があります。実際に投資・開業する際は必ず各自治体の最新情報をご確認ください。
同じ東京都内でも、区が違うだけで営業できる日数や運営条件が変わる可能性があります。
そのため今後の民泊投資では、
「宿泊需要がある場所か」
だけでなく、
「その場所で継続的に営業できるのか」
という視点がさらに重要になります。
こうした市場環境から、すでに運営実績を持つ民泊事業そのものを引き継ぐM&Aも、参入方法の一つとして検討されるようになっています。
3. 民泊M&Aで何を買うのか?
ここは民泊M&Aを理解するうえで非常に重要です。
賃貸型の民泊M&Aでは、基本的に不動産そのものを購入するわけではありません。
購入するのは「民泊事業」です。
案件によって異なりますが、例えば、
許認可関係
旅館業などの許認可。(ただし許認可の種類によって承継・名義変更の可否が異なります。)
家具・家電・備品
ベッド、ソファ、冷蔵庫、洗濯機、テレビ、調理器具、アメニティ備品など。
運営実績・データ
過去の売上、ADR(平均客室単価)、OCC(平均客室稼働率)、営業利益など。
運営体制
清掃会社、運営会社、緊急時の駆けつけ対応会社など。
といった、民泊運営に必要となる事業基盤を引き継ぐケースがあります。
ただし、「何が譲渡対象になるか」は案件ごとに異なります。
特に賃貸借契約や許認可については、そのまま引き継げるとは限らないため注意が必要です。
4. 民泊M&Aの5つのメリット
① 開業までの手間を抑えられる
民泊をゼロから開業する場合、物件探し、行政調査、許認可、消防設備、内装、家具家電、OTA登録、清掃体制など、多くの準備が必要です。
民泊M&Aでは、すでに営業している施設を取得するため、こうした準備工程を大幅に減らせる可能性があります。
特に宿泊事業を初めて行う方にとって、すでに構築された事業基盤を活用できることは大きなメリットです。
② 収益化までの期間を短縮できる
通常の民泊投資では、物件を取得してから売上が発生するまで一定の準備期間があります。
その間も、
- 賃料
- 人件費
- 工事費
- 家具家電費
- システム費
- その他開業準備費
などが発生します。
一方、M&Aではすでに稼働している事業を取得するため、適切に引き継ぐことができれば、取得後の早い段階から営業を継続できる可能性があります。
③ 過去の実績を見て投資判断できる
新規開業の場合、売上予測はあくまで「予測」です。
一方、既存民泊の場合、
- 過去の売上
- ADR
- OCC(稼働率)
- OTA実績
- 清掃費
- 賃料
- 運営費
- 営業利益
などの実績を確認できる可能性があります。
つまり、
「この物件ならこれくらい売れるだろう」
ではなく、
「実際にこれまでどれくらい売れていたのか」
を基準に投資判断できることが、M&Aの大きな特徴です。
もちろん、過去の実績が将来の収益を保証するわけではありません。
そのため後述するデューデリジェンス(DD)が重要になります。
④ 不動産購入より少額から始められる
東京などの都市部で宿泊施設そのものを購入しようとすると、数千万円〜数億円規模の資金が必要になることも珍しくありません。
一方、賃貸型民泊の事業譲渡であれば、数百万円から取得できる案件も存在します。
⑤ 次の不動産投資へのステップにもなる
「最終的にはホテルや民泊物件を所有したい」
という方にも、スモールM&Aは一つの選択肢になります。
いきなり数千万円〜数億円の不動産を購入するのではなく、
小規模な民泊事業を取得
↓
宿泊運営を経験
↓
実績を蓄積
↓
複数施設へ展開
↓
将来的に不動産所有へ
というステップアップも考えられるからです。
5. 「M&A」「新規賃貸」「不動産購入」は何が違う?
民泊へ投資する方法は、大きく3つに分けられます。

少ない資金で宿泊事業を経験したい
→ 民泊M&A
自分で一から施設を作り込みたい
→ 新規賃貸
不動産そのものの資産価値も保有したい
→ 不動産購入
という考え方ができます。
6. 実際の民泊M&Aはいくらで買える?
実際の事例を一つ見てみましょう。
CASE:豊島区・マンション1室
譲渡価格:1,600万円
年間売上:780万円
年間営業利益:480万円
投資利回り:30.0%
ADR:約31,000円
稼働率:約70%
広さ:約40㎡
定員:6名
運営期間:2年
許認可:旅館業
売主は転貸民泊から所有物件へ切り替えるために事業を売却し、法人から法人へ譲渡された事例です。
このように民泊M&Aでは、「赤字だから売却する」とは限りません。
事業売却の理由には、
- 他事業へ資金を投資したい
- 引っ越し
- 本業への集中
- 資産整理
- 民泊から不動産所有への移行
- 複数施設のポートフォリオ入れ替え
など、さまざまな事情があります。
だからこそ、売却理由と事業収益性を分けて分析することが重要です。
7. 民泊M&Aで絶対に確認したい7つのポイント
民泊M&Aはメリットだけではありません。
むしろ購入前の確認を怠ると、取得後に想定外の問題が発生する可能性があります。
① 許認可は本当に引き継げるのか?
「営業中だから、その許可をそのまま使える」とは限りません。
住宅宿泊事業や特区民泊では、事業者変更時に新たな届出・認定等が必要になるケースがあります。
旅館業についても法人・個人、事業譲渡の方法などによって必要な手続きが変わります。
取得前に必ず行政・専門家へ確認しましょう。
② 賃貸借契約を確認する
転貸型民泊では、物件そのものを購入しません。
そのため賃貸借契約が継続できるか、新契約条件は何かが事業価値を大きく左右します。
現在の契約をそのまま引き継げない場合、新たにオーナー・管理会社との賃貸借契約が必要になります。
※特に定期借家契約は契約の更新がない契約形態になりますので、注意をしてください!
③ 定期借家契約の残存期間
例えば500万円で民泊事業を購入しても、定期借家契約の残存期間が1年しかなければ、投資回収できない可能性があります。
そのため、
譲渡価格 ÷ 年間営業利益
だけを見るのではなく、
残存契約期間の中で投資回収できるのか
を見る必要があります。
④ 売上だけでなくOTAデータまで確認する
売主から提出されたExcel、PDFだけで判断するのは危険です。
AirbnbやBooking.comなどのOTA管理画面、予約履歴、入金履歴などと照合し、実際の運営実績との整合性を確認することが重要です。
⑤ 譲渡後の家賃・初期費用
現在の家賃がそのまま引き継がれるとは限りません。
新契約によって、
家賃20万円 → 25万円
となれば、年間利益は60万円減少します。
さらに、
- 敷金
- 礼金
- 保証会社
- 仲介手数料
- 前家賃
などが新たに必要になる場合があります。
「事業の譲渡価格」だけを初期投資として考えないことが重要です。
⑥ 運営会社・清掃会社を引き継げるか?
事業を買えても、運営体制を引き継げなければ、取得直後から自分で新しい体制を作らなければなりません。
特に、
- 清掃会社
- 運営代行会社
- ゴミ処理
- 駆けつけ対応
などは営業継続に影響する可能性があります。
現在の業者契約が継続可能なのかも確認しましょう。
⑦ 自治体の営業日数規制
住宅宿泊事業の場合には特に注意が必要です。
物件単位で営業日数が管理されるため、譲渡時期によっては取得後に営業できる日数が限られる可能性があります。
8. 民泊M&Aの購入から引き継ぎまでの流れ
一般的には、次のような流れで進みます。
STEP1|希望条件の整理
予算、エリア、希望利回り、運営方法などを整理します。
STEP2|案件を探す
条件に合った民泊M&A案件を確認します。
STEP3|秘密保持契約(NDA)
詳細な収支や住所などを確認するため、秘密保持契約を締結します。
STEP4|詳細資料の確認
売上、利益、OTAデータ、賃貸借契約、許認可などを確認します。
STEP5|トップ面談・内見
売主との面談や現地確認を行います。
STEP6|基本合意
譲渡価格やスケジュールなど、大枠の条件を決定します。
STEP7|デューデリジェンス
収支、契約、許認可などについて最終確認します。
STEP8|譲渡契約
最終的な譲渡条件を契約します。
STEP9|許認可・運営体制の引き継ぎ
必要となる行政手続きや運営会社等の引き継ぎを行います。
STEP10|クロージング
決済・引き渡しを行い、事業承継完了となります。
9. 民泊M&Aはどんな人に向いている?
特に検討しやすいのは、次のような方です。
民泊を初めて始める方
ゼロから物件探し・許認可・内装・運営体制構築を行う負担を減らし、すでに営業している事業からスタートできます。
数百万円から宿泊投資を始めたい方
不動産購入ほど大きな資金を用意せず、宿泊事業へ参入できる案件があります。
副業として民泊を運営したい方
既存の運営会社や清掃会社を承継できれば、自らすべての実務を行わず運営できる可能性があります。
将来、宿泊不動産を所有したい方
まず小規模な事業で宿泊運営の経験を積み、その後、所有型へ移行する方法も考えられます。
すでに民泊を運営している方
ゼロから新規施設を開業するだけでなく、M&Aによって既存施設を取得することで、施設数を増やす選択肢にもなります。
10. 「利回りが高い」だけで買わない
民泊M&A案件を見ると、
「利回り30%」
「投資回収3年」
といった数字が目につきます。
しかし、表面上の利回りだけで投資判断することはおすすめできません。
例えば、
年間営業利益300万円
譲渡価格900万円
であれば、単純計算では投資回収期間は3年です。
しかし、
定期借家契約残存期間:2年
だった場合はどうでしょうか。
さらに譲渡後に家賃が上昇すれば、現在の利益水準を維持できない可能性もあります。
だからこそ民泊M&Aでは、
「いくら儲かっているか」だけではなく、「その利益をあと何年間、どの程度再現できるのか」を見ることが重要です。
11. 民泊M&Aで見るべき本当の投資指標
INVESTELでは、少なくとも以下の数字を総合的に確認することをおすすめします。
事業収益性
売上高/営業利益/ADR/OCC/RevPAR/利益率
投資条件
譲渡価格/初期費用/投資利回り/投資回収期間
不動産条件
賃料/契約期間/更新条件/転貸許可/保証会社
事業継続性
許認可/自治体条例/管理体制/清掃体制/近隣対応
収益の再現性
過去12〜24カ月程度の売上推移/季節変動/レビュー/予約状況/OTA実績
単純に、
「利益300万円だから、900万円で買えば利回り33%」
ではなく、
その300万円の利益が取得後にも再現可能なのか?
まで分析することが、民泊M&Aの投資判断では重要になります。
12. 民泊投資は「作る」から「買う」という選択肢へ
これまで民泊投資では、
「民泊可能物件を探して、自分で開業する」
ことが一般的でした。
しかし宿泊市場が成熟し、既存施設の売買が増えていけば、
「既存の民泊事業を買って参入する」
という選択肢も、より一般的になっていく可能性があります。
民泊M&Aには、
- 開業準備を短縮できる
- 運営実績を確認できる
- 早期に営業開始できる可能性がある
- 不動産購入より少額で参入できる案件がある
- 既存の運営体制を活用できる
というメリットがあります。
一方、
- 許認可
- 賃貸借契約
- 契約残存期間
- 収益の再現性
- 運営会社・清掃会社
- 自治体条例
など、通常の不動産投資とは異なる確認項目もあります。
つまり民泊M&Aは、
「簡単に儲かる投資」なのではなく、「すでに出来上がった宿泊事業を分析して買う投資」
と考えることが重要です。
まとめ|少額から宿泊事業へ参入する新しい選択肢
民泊M&Aは、物件取得や開業準備から始める従来型の民泊投資とは異なり、既存の民泊事業を引き継いで参入する方法です。
特に、
「まずは数百万円規模から民泊投資を経験したい」
「ゼロから開業するより、運営実績のある施設を取得したい」
「すでに民泊を運営していて、M&Aで施設を増やしたい」
という方にとっては、検討する価値のある投資手法の一つです。
ただし、民泊M&Aは案件によって条件が大きく異なります。
譲渡価格や利回りだけを見るのではなく、許認可、契約期間、賃料、OTA実績、運営体制などを総合的に確認したうえで投資判断を行いましょう。
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