「ホテル・旅館を買うなら、今は買い時なのか」
「インバウンド需要は今後も続くのか」
「宿泊施設のM&Aは本当に増えているのか」
ホテル・旅館・民泊などの宿泊施設への投資やM&Aを検討するうえで、市場環境を把握することは欠かせません。
特に宿泊施設は、一般的な不動産とは異なり、宿泊需要・ADR(平均客室単価)・稼働率・人件費・インバウンド・設備投資などによって収益が大きく変わる事業性の高い資産です。
そのため、「観光市場が好調だから買う」「インバウンドが増えているから売上も伸びる」といった単純な判断ではなく、複数のデータを組み合わせて市場を見る必要があります。
本記事では、JNTO(日本政府観光局)、観光庁などが公表しているデータをもとに、2026年時点の宿泊市場を整理します。
そのうえで、ホテル・旅館・民泊のM&Aを検討する買い手・売り手それぞれが、現在の市場をどう捉えるべきかをINVESTELの視点から解説します。
この記事でわかること
◎2026年の訪日外国人数の動向
◎インバウンド消費額と一人当たり旅行支出
◎日本の宿泊需要がコロナ前からどう変わったか
◎国内M&A市場の動向
◎宿泊施設で考えられる代表的なM&A・投資パターン
◎ホテル・旅館を買う側が確認したいポイント
◎宿泊施設を売却する側が準備したいポイント
◎2026年の宿泊M&A市場をどう見るべきか
監修:INVESTEL M&Aアドバイザリーチーム
1. 2026年のインバウンドは「人数だけ」を見ない
まず確認したいのが、宿泊需要に大きな影響を与える訪日外国人旅行者の動向です。
JNTOによると、2026年4月の訪日外客数は369万2,200人。
2026年の単月としては当時最高となった一方、前年同月比では5.5%減となりました。
一見すると、「インバウンドの勢いが落ちているのでは」と感じる数字かもしれません。
しかし、もう少し細かく見る必要があります。
2026年4月は、
・韓国
・台湾
・ベトナム
・米国
・フランス
などを含む9市場で「4月として過去最高」を記録し、フランスは単月として過去最高となりました。
さらに、2026年1〜4月の累計訪日外客数は、2年連続で1,400万人を超えています。
つまり2026年のインバウンド市場は、
「すべての国から一律に旅行者が増えている市場」
というより、
「国・地域によって濃淡がありながらも、全体として高い需要水準が続いている市場」
と捉える方が適切です。
ホテル投資でも、単純な「訪日外国人数」だけではなく、その施設がどの国・地域の旅行者から選ばれているのかまで見る重要性が高まっています。
2. インバウンド消費額は第2四半期として過去最高
宿泊投資を考えるうえでは、旅行者数と同じくらい重要なのが旅行者がいくら使っているかです。
観光庁の「インバウンド消費動向調査」によると、2026年4〜6月期の訪日外国人旅行消費額は、
2兆5,096億円
となりました。
前年同期比では+0.2%とほぼ横ばいですが、第2四半期としては過去最高です。
さらに注目したいのが、一人当たり旅行支出です。
2026年4〜6月期は、
24.4万円/人
となり、前年同期比で3.3%増となりました。
消費額上位の国・地域は、
米国 → 台湾 → 中国 → 韓国 → 香港
の順です。
3. 宿泊投資では「人数」よりADRが重要になることもある
このデータを宿泊施設の経営という視点で見ると、重要な示唆があります。
旅行者数が伸びていても、価格競争によってADRが下がれば、収益が伸びない場合があります。
反対に、宿泊者数が横ばいでも、高付加価値化によってADRを引き上げられれば、売上・利益を伸ばせる可能性があります。
そのため2026年の宿泊投資では、
「インバウンドが増えているエリアだから買う」
だけでは十分ではありません。
例えば、
・ADR
・OCC(客室稼働率)
・RevPAR
・国籍別宿泊者構成
・平均宿泊日数
・予約リードタイム
・OTA構成
・直接予約比率
などを確認し、その施設が需要をどの程度売上へ転換できているかを見る必要があります。
4. 日本の宿泊需要はコロナ前を上回る水準へ
次に、日本国内の宿泊需要を見てみます。
観光庁の宿泊旅行統計では、2024年の延べ宿泊者数はコロナ前の2019年を上回る水準まで回復しています。
特に伸びが大きいのが外国人宿泊者です。
観光庁が公表した2024年年間速報では、外国人延べ宿泊者数は約1億6,360万人泊となり、2019年比で41.5%増でした。
つまり宿泊市場全体を見ると、
国内需要の回復+外国人宿泊需要の拡大
という構造が見えてきます。
ただし、この数字だけを見て「すべてのホテル・旅館が好調」と判断するのは危険です。
5. 宿泊市場は「全国平均」では判断できない
宿泊需要は、エリアや施設タイプによって大きく異なります。
例えば、
東京・大阪・京都などの都市部と地方観光地では需要構造が違います。
同じ観光地でも、
・ビジネスホテル
・シティホテル
・リゾートホテル
・旅館
・一棟貸し
・民泊
では、ADR・稼働率・季節変動が異なります。
さらに、
インバウンド比率
国内客比率
平日・休日需要
繁忙期・閑散期
によっても収益構造は変わります。
したがって宿泊M&Aでは、
「日本の観光市場が伸びているか」
を見るだけではなく、
「このエリア、この施設、この客層の需要はどうなっているか」
まで落とし込むことが重要です。
6. 「宿泊需要が増えている=買い時」とは限らない
ここは、宿泊投資を考えるうえで非常に重要です。
需要が増えれば、宿泊施設の売上・利益が伸びる可能性があります。
一方で、市場環境が良くなれば、売却価格や不動産価格も上昇する可能性があります。
例えば、
年間GOP:3,000万円
のホテルを、
3億円で取得する場合と、
5億円で取得する場合では、
同じホテルでも投資リターンは大きく変わります。
さらに、
・改修費
・設備更新
・取得諸費用
・金利
・運転資金
まで含めれば、実際の投資額はさらに増えます。
つまり、
「ホテル市場が好調」=「ホテルを買えば儲かる」
ではありません。
重要なのは、
市場環境 × 取得価格 × 将来収益 × CAPEX × 資金調達
をセットで見ることです。
7. 国内M&A市場そのものも活発化
宿泊業だけでなく、日本国内のM&A市場全体でも活発な取引が続いています。
背景には、
・後継者不在
・事業承継
・ノンコア事業の売却
・事業ポートフォリオの見直し
・成長分野への投資
・業界再編
などがあります。
宿泊業でも同様に、
「後継者がいない」
「施設は残したいが、自分たちでは運営を続けられない」
「複数施設のうち一部を売却したい」
「不動産は保有したまま運営事業だけ譲渡したい」
「別の事業へ資金を振り向けたい」
など、赤字・経営不振だけではないさまざまな理由でM&Aが検討されます。
そのため、買い手側も、
「売却案件=経営が悪い施設」
と考えないことが重要です。
8. 宿泊M&Aで考えられる4つのパターン
ホテル・旅館・民泊などの宿泊施設では、さまざまな形でM&A・事業承継が行われます。
代表的なものを整理すると、次の4つです。
① 事業承継型
後継者不在などを背景に、第三者へ宿泊事業を承継するケースです。
地域で長く営業してきた旅館などでは、廃業ではなく第三者承継によって施設や雇用を残す選択肢になります。
② 再生・バリューアップ型
既存施設を取得し、
・リニューアル
・ブランディング
・ADR改善
・OTA運用改善
・DX
・コスト改善
などによって収益性を高める方法です。
③ グループ化・多店舗展開型
ホテル運営会社などが複数施設を取得し、
・予約管理
・マーケティング
・人材
・清掃
・購買
・システム
などを共通化することで、運営効率を高める考え方です。
④ 所有と運営を分ける方法
宿泊施設では、
不動産を所有する会社・投資家
と
ホテルを運営する会社
が異なるケースもあります。
不動産売買、株式譲渡、事業譲渡、賃貸借、運営委託などを組み合わせることで、投資家と運営会社それぞれの役割を分ける方法です。
9. 買い手が2026年の宿泊M&Aで見るべきポイント
市場全体が好調だからといって、すべての施設が投資対象として魅力的とは限りません。
買い手側では、少なくとも次の4つの視点を持つことをおすすめします。
① 現在の収益
売上、ADR、OCC、RevPAR、GOPなど。
② 収益の再現性
現在の売上・利益が、取得後も維持できるのか。
③ 改善余地
ADR、稼働率、マーケティング、運営コスト、飲食、付帯売上などを改善できるか。
④ 総投資額
取得価格だけでなく、
取得価格+取得諸費用+CAPEX+開業・引継ぎ費用+運転資金
で考えます。
INVESTELでは、この**All-in Cost(総投資額)**を基準に投資判断することが重要だと考えています。
10. 売り手にとっては「市場が良い=高く売れる」とも限らない
売り手側でも同じです。
インバウンド市場が好調だからといって、すべての宿泊施設が高く評価されるわけではありません。
買い手が見ているのは、
・過去の売上
・ADR
・OCC
・GOP
・許認可
・建物状態
・CAPEX
・従業員
・運営体制
・契約
・将来収益
などです。
そのため売却を検討する場合は、
「市場が良いうちに売る」
だけではなく、
「買い手が投資判断できる状態をつくってから売る」
という視点が重要になります。
例えば、過去12〜36カ月程度の月次実績、OTAデータ、設備修繕履歴、許認可関係資料、主要契約などを整理しておけば、買い手のDD(デューデリジェンス)や投資判断を進めやすくなります。
11. 2026年は「ホテルを買うか」より「どのホテルを、いくらで買うか」
2026年の宿泊市場を見ると、インバウンド旅行者数には市場別の濃淡がある一方、一人当たり旅行支出は高い水準にあります。
また、外国人延べ宿泊者数もコロナ前を大きく上回る水準まで増加しています。
この環境だけを見れば、宿泊投資には一定の追い風があります。
しかし投資判断で重要なのは、
「宿泊市場が伸びるか」だけではありません。
重要なのは、
どのエリアで
どの施設を
いくらで取得し
取得後にどこまで収益を改善し
最終的にどの程度のキャッシュフローを得られるのか
です。
同じ市場環境でも、取得価格が違えば投資結果は大きく変わります。
だからこそ2026年の宿泊M&Aでは、
Market(市場)
だけではなく、
Asset(施設)× Operation(運営)× Price(取得価格)
まで見ることが重要です。
まとめ|2026年の宿泊M&A市場は「追い風」と「選別」が同時に進む市場
2026年の宿泊市場を公的統計から見ると、インバウンド需要は前年同月を下回る月がある一方、累計では依然として高い水準にあります。
また、2026年4〜6月期の訪日外国人旅行消費額は第2四半期として過去最高となり、一人当たり旅行支出も24.4万円まで上昇しています。
つまり、
「旅行者数が増えているから宿泊施設を買う」
という単純な市場ではなくなりつつあります。
これから重要になるのは、
どのエリアに需要があるのか
どの客層が伸びているのか
ADRをどこまで上げられるのか
取得後も現在の利益を再現できるのか
CAPEXを含めた総投資額はいくらなのか
まで分析することです。
「今は買い時なのか、売り時なのか」という問いに、宿泊市場全体で共通する答えはありません。
むしろ、
「今が買い時か」ではなく、「この案件は今、この価格で買うべきか」
まで落とし込むことが、宿泊M&Aにおける投資判断では重要です。
■宿泊施設のM&A・売買ならINVESTEL
INVESTELは、ホテル・旅館・民泊などの宿泊施設に特化したM&A・投資プラットフォームです。
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