2026年夏、不動産市場にこれまでとは異なる動きが見え始めています。
特に変化が表れているのが、これまで価格上昇を続けてきた東京都内の中古マンション市場です。
2026年7月の東京都の中古マンション成約件数は1,863件。前年同月比13.9%減となった一方、平均成約価格は7,004万円と前年同月比2.2%上昇しました。
つまり、
「価格は高いままなのに、取引件数が減っている」
という状況です。
さらに8月には、東京都の中古マンション成約件数は1,562件まで減少し、前年同月比18.7%減。平均成約価格も6,826万円となり、前年同月比0.4%減となりました。
これまで上昇を続けてきた不動産市場は、本格的な「選別」の局面に入りつつあるのでしょうか。
今回は、PIVOTで公開された「不動産市場の潮目が変わった:2026年夏の市況転換」の内容を参考にしながら、2026年の不動産市場で起きている変化と、ホテル・旅館・民泊などの「宿泊不動産」への影響について考えていきます。
1.2026年夏、不動産市場で何が起きているのか
大きなポイントは、
「売り手が考えている価格」と「買い手が実際に購入できる価格」の間にズレが生まれていること
です。
東京都の中古マンション市場を見ると、2026年7月の成約件数は前年同月比13.9%減。
さらに8月は18.7%減となり、取引件数の減少幅が拡大しています。
一方で、東京都の中古マンション在庫は8月時点で28,082件となり、前年同月比21.3%増加しました。
つまり、
売りたい物件は増えている一方で、実際に成立する売買は減っている
という状況が起きています。
これまでのような「売りに出せば高値で売れる」という市場から、価格や物件ごとの差が出やすい市場へ変わりつつある可能性があります。
2.背景のひとつにある「住宅ローン」の変化
不動産市場を考えるうえで無視できないのが金利です。
金融機関が住宅ローン審査時に用いる「審査金利」を引き上げていることが、市場に影響を与えております。
実際に適用される住宅ローン金利とは別に、金融機関は、
「今後金利が上昇しても、この人は返済できるのか」
という観点から融資可能額を審査します。
この審査基準が厳しくなれば、同じ年収でも借りられる金額が小さくなります。
PIVOTでは、これまで年収の8倍程度まで借りられた層でも、7倍程度までしか融資が伸びないケースが出ていることが紹介されています。
たとえば世帯年収1,500万円の場合、
従来:約1億2,000万円
現在:約1億500万円
といった形で、購入可能額が1,000万円単位で変わる可能性があります。
特に影響を受けやすいのが、1億円〜1.2億円前後の価格帯です。
現金購入する富裕層とは異なり、この価格帯では住宅ローンを利用する高所得会社員や共働き世帯も多く、融資可能額の変化がそのまま市場の購買力低下につながります。
3.「東京が下がれば全国が下がる」とは限らない
もうひとつ重要なのが、今回の変化がすべての不動産市場で同じように起きているわけではないことです。
2026年8月の首都圏中古マンション成約件数を見ると、
東京都:前年同月比18.7%減
埼玉県:同5.4%増
千葉県:同0.3%増
神奈川県:同4.3%減
となっています。
東京都、とりわけ価格が上昇してきた都心部で取引が減少する一方、東京都外では異なる動きも見られます。
背景として考えられるのが、価格上昇による需要の移動です。
「東京で買いたいけれど、価格が高すぎる」
という購入者が、千葉・埼玉・神奈川などへ購入エリアを広げる動きです。
これからの不動産市場では、
「東京か地方か」
という単純な比較ではなく、
価格・利便性・需要・融資環境のバランスが取れているエリアか
という視点が、これまで以上に重要になるでしょう。
4.では、宿泊不動産にはどのような影響があるのか?
ここからが、INVESTELとして注目したいポイントです。
今回の動画は主に住宅市場を対象としています。
そのため、中古マンション市場で起きている現象を、そのままホテル・旅館・民泊などの宿泊不動産に当てはめることはできません。
一方で、
「不動産価格が上昇すれば、どこまでも買い手がついてくるわけではない」
という点は、宿泊不動産にも共通します。
宿泊施設の場合、さらに重要なのが「事業収益」です。
一般的な住宅であれば、立地や築年数、面積、周辺成約事例などから価格を比較できます。
しかしホテル・旅館・民泊の場合は、
・年間売上
・稼働率(OCC)
・平均客室単価(ADR)
・営業利益
・GOP
・人件費
・清掃費
・OTA手数料
・修繕費
・今後必要となるCAPEX
・許認可
・運営体制
などによって、同じ不動産でも価値が大きく変わります。
つまり宿泊不動産では、
「不動産価格」だけではなく、「その施設がいくら稼げるのか」
を見る必要があります。
5.不動産価格が高い局面ほど「利回り」が重要になる
例えば、年間の営業利益が1,000万円の宿泊施設を考えてみます。
物件価格が1億円なら、単純計算した利益ベースの利回りは10%です。
しかし、不動産価格が1億5,000万円まで上昇すれば、同じ1,000万円の利益でも約6.7%になります。
さらに借入金利が上昇すれば、投資家の手元に残るキャッシュフローは減少します。
そのため、不動産価格が高止まりし、金利が上昇する局面では、
「将来もっと高く売れるから買う」
というキャピタルゲイン前提の投資よりも、
「現在の事業収益で投資が成立するか」
という視点が重要になります。
これは宿泊不動産にとって非常に大きなポイントです。
6.宿泊施設は「不動産+事業」で評価する
ホテル・旅館・民泊は、一般的な収益不動産とは少し性質が異なります。
例えば同じ1億円の物件でも、
年間売上3,000万円・営業利益300万円の施設と、
年間売上5,000万円・営業利益1,000万円の施設では、
投資対象としての価値は大きく異なります。
さらに、
「現在は利益が出ていないものの、運営改善によって収益を伸ばせる施設」
も存在します。
例えば、
OTA構成の見直し
ADRの改善
清掃・人件費の適正化
レベニューマネジメントの導入
客室改修
インバウンド集客
直販比率の向上
などによって、施設の収益性が変わる可能性があります。
そのため宿泊不動産では、
現在の利益だけでなく、「運営改善後の収益力」まで含めて投資判断すること
が重要です。
7.市場調整は「宿泊施設M&A」にも影響する可能性
もうひとつ注目したいのが、宿泊施設のM&A・事業承継です。
不動産価格が上昇している局面では、
「不動産として売却した方が高く売れる」
というケースが増えます。
一方、市場の価格調整が進んだ場合には、
不動産だけを売却するのではなく、
「宿泊事業そのものの価値」
が改めて重要になる可能性があります。
例えば、
不動産価値:1億円
宿泊事業価値:3,000万円
という施設であれば、
単純な不動産売買だけではなく、
「不動産+事業」
「事業譲渡」
「株式譲渡」
など、複数の売却方法を検討できます。
特に旅館業許可、運営ノウハウ、スタッフ、予約、ブランド、顧客基盤などを持つ施設の場合、建物だけでは測れない価値が存在します。
宿泊施設の売却では、
「土地・建物はいくらか」だけではなく、「事業として何を引き継げるのか」
まで整理することが重要です。
8.これからの宿泊投資で確認したい5つのポイント
2026年の市場環境を踏まえると、ホテル・旅館・民泊への投資では、特に以下を確認する必要があります。
①「売出価格」ではなく収益から価格を見る
売主の希望価格や周辺物件の販売価格だけではなく、実際の営業利益やキャッシュフローから投資可能価格を逆算することが重要です。
② 金利上昇を織り込んで収支を見る
現在の借入条件だけでなく、金利が上昇した場合でも返済可能かを確認します。
③ ADR・OCCを楽観的に設定しすぎない
宿泊施設では将来の売上予測が投資判断を大きく左右します。
周辺施設、季節性、インバウンド需要、曜日構成などを踏まえた現実的なシミュレーションが必要です。
④ CAPEXを見落とさない
旅館・ホテルでは、購入後に空調、給排水、防水、外壁、客室、消防設備などへの投資が必要になるケースがあります。
購入価格が安くても、数年後に大規模修繕が必要であれば、実質的な投資額は大きく変わります。
⑤ 「出口」まで考えて購入する
将来、
不動産として売却するのか
宿泊事業として売却するのか
M&Aで第三者へ承継するのか
によって、購入時に見るべきポイントも変わります。
「いくらで買えるか」だけではなく、「誰に、どのような形で引き継げるのか」まで考えることが、宿泊投資では重要です。
9.価格上昇から「収益力の選別」へ
2026年夏の不動産市場では、これまでとは異なる動きが見え始めています。
東京都では、中古マンションの成約件数が減少する一方で在庫が増加し、これまで続いてきた価格上昇局面から変化の兆しが表れています。
ただし、これだけで「不動産市場全体が下落する」と判断するのは早計です。
東京都と周辺県でも動きは異なります。
そして、ホテル・旅館・民泊などの宿泊不動産は、住宅市場とはさらに異なる特徴を持っています。
これから重要になるのは、
「不動産だから上がる」ではなく、「この施設にはどれだけの収益力があるのか」
という視点ではないでしょうか。
不動産価格、宿泊需要、運営収益、金利、修繕、そして出口戦略。
これらを総合的に分析したうえで投資判断することが、今後の宿泊不動産投資ではこれまで以上に重要になりそうです。
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参考資料
・PIVOT「不動産市場の潮目が変わった:2026年夏の市況転換」(2026年9月11日公開)
・公益財団法人 東日本不動産流通機構「月例速報 Market Watch」2026年7月度・8月度
・東京都中古マンション市場データ(2026年7月・8月)
※本記事は公開情報および上記動画を参考に、INVESTEL編集部が宿泊不動産・宿泊投資の観点から独自に編集・解説したものです。特定の不動産・金融商品への投資を推奨するものではありません。実際の投資・融資・売買等については、個別の条件をご確認のうえご判断ください。